熨斗(のし)とは、一般的に熨斗紙の右上部分に描かれた飾りを指し、贈り物に添えられる飾りの一種です。
本来は、薄く伸ばした鮑(あわび)を乾燥させた「熨斗鮑(のしあわび)」を指し、長寿や繁栄を象徴する縁起物として用いられてきました。
現代では、贈答品に添える紙や包装に印刷された飾りとして広く認識されています。

熨斗の起源と歴史
熨斗の起源は古く、平安時代(794年~1185年)にまで遡ります。当時、宮中や貴族社会では、贈答品として鮑が珍重されていました。特に、鮑を薄く切り伸ばして乾燥させた「熨斗鮑」は、保存性が高く、長寿や繁栄の象徴とされ、贈答品に添えられるようになりました。
鎌倉時代(1185年~1333年)には、武家社会の台頭とともに、贈答の習慣が武士階級にも広がりました。この時期、熨斗鮑は武士の間でも縁起物として重宝され、贈答品に添える習慣が定着しました。
室町時代(1336年~1573年)になると、贈答の形式や礼法がさらに整備され、熨斗鮑を包む紙や布が工夫されるようになりました。この頃から、熨斗鮑を包むための特別な紙「熨斗紙」が登場し、贈答文化の中で重要な役割を果たすようになりました。
江戸時代(1603年~1868年)には、庶民の間でも贈答の習慣が広まりました。しかし、鮑は高価で手に入りにくいため、代用品として紙で作った熨斗が用いられるようになりました。これが現在の熨斗の原型となり、贈答品に添える飾りとして定着しました。
熨斗の意味と象徴
熨斗は、長寿や繁栄、幸福を象徴する縁起物として知られています。特に、鮑は古来より「不老長寿」の象徴とされ、その鮑を伸ばして乾燥させた熨斗鮑は、贈り主の相手への長寿や繁栄を願う気持ちが込められています。
また、熨斗には「伸ばす」という意味も含まれており、事業の発展や家族の繁栄など、物事が順調に進むことを願う象徴ともされています。このような意味合いから、熨斗はお祝い事や慶事の際に贈答品に添えられることが一般的です。
熨斗の種類と使い方
慶事の贈答
結婚式、出産祝い、入学・卒業祝い、長寿祝いなど、喜ばしい出来事の際に贈る品物には熨斗を添えるのが一般的です。贈り主の祝福の気持ちをしっかりと相手に伝えることができます。
季節の挨拶として
お中元やお歳暮など、季節の挨拶として贈り物をする際にも熨斗が用いられます。お世話になった方への日頃の感謝の気持ちを伝えるためのもので、熨斗を添えることで正式な贈り物としての格式を持たせます。
ただ一部の品(肉類などのいわゆる「生臭物」)を贈る場合には熨斗を付けない場合もあります。
ビジネスシーン
取引先への贈答や、会社の慶事の際にも熨斗が使用されます。ビジネスシーンでは、熨斗を添えることで礼儀や敬意を示すことができ、良好な関係を築く一助となります。
弔事
弔事の際には、白黒や銀色の水引を用いた熨斗が使用されます。ただし、弔事の場合は「熨斗」を省略し、水引のみを用いることが一般的です。これは、熨斗が本来「お祝い」の意味を持つため、弔事には適さないとされるからです。
熨斗の種類と選び方
両折熨斗
一般的な慶事や贈り物・お礼など、幅広く利用できる熨斗の形式です。正式に贈る場合や目上の方に贈る場合にも適しており、どんなシーンにも使いやすい基本的な熨斗です。

片折熨斗
両折熨斗を簡略化した熨斗であり、親しい間柄での一般的な贈り物やお祝いに適しています。日用品・高価すぎない物・小物やちょっとした品を贈る場合にも適しています。

飾り熨斗
婚礼用の飾りがついた熨斗で、主に結婚祝いやそれに関する品を贈る場合に適しています。その他の用途には適していないので、婚礼用途のみでご利用ください。

宝尽くし熨斗
宝尽くし熨斗は一般的な慶事や贈り物など、幅広く使われる形式です。両折熨斗や片折熨斗と同様の意味合いで用いることができます。

判熨斗
熨斗を判子のように絵で描いた簡易的な熨斗です。記念品・菓子・食品など、粗品や消え物を贈る場合に適しています。簡易的な熨斗なので正式に贈る場合には適しません。

松葉熨斗
松葉熨斗は「松葉のように小さな品物(粗品)です」の謙虚な気持ちを表し、小物や粗品など、ちょっとした贈り物をする際に適しています。粗品でない物や正式に贈る場合には適さず、両折熨斗を選ぶのが無難です。

文字熨斗
文字熨斗は「のし」の文字をデザインしたもので、心付けや小さな贈り物、菓子・食品などそれほど高価ではない品を贈る場合に適しています。

わらび熨斗
わらび熨斗は植物の「蕨(わらび)」を模した熨斗で、消え物(食品・日用品・石鹸・洗剤)など、ちょっとした品を贈る場合に適しています。

ここまでのまとめ
一口に「熨斗」といっても様々な種類や意味が込められています。
またデザイン性も豊かで、場面に応じた適切な熨斗を選ぶことで、贈り物により深い意味を持たせることができます。
現代では、伝統的な熨斗だけでなく、カジュアルなデザインやデジタル化された熨斗も登場し、多様なライフスタイルに適応しています。これからも熨斗の文化を尊重しつつ、生活の様々な場面で活用していくことが、より丁寧で心のこもった贈り物につながりますね。